家族の流儀。

こんばんは。

相も変わらず、寒い日が続いていますが、皆様、お元気でしょうか。
私は、今一つ、風邪が治らず、なんとなくぼおっとしております。

さて、昨日、「豚肉の煮込み菜園風」を煮込みながら、漠然と考えていたことがあります。

「これ、ブロードとベルモットでなく、白ワインで作るやり方もあるよね、きっと」

たしかに、調べてみたら、ありました。
トスカーナでは、そちらの方がスタンダードかもしれません。

うむ。
私のイタリア料理というのは、基本的にドンキローネ氏とそのお母さんであるアドレアーナのやり方なのです。
この家では、「ワインを入れると全部ワインの味になる」と言って、最低限しかワインを使わず、ブロードを使うのを好んでいました。
その他にも、「甘くなりすぎないように」玉ねぎは炒めすぎない、とか。
ラグーに入れる玉ねぎは、水分が出すぎないように、赤玉ねぎにする、とか。
ちょっとした、流儀がありました。

アドレアーナはヴェネト州出身なので、あちらの方のやり方なのでしょうか。そういえば、タレントのロザンナさんもヴェネト出身。思いかえせば、彼女のレシピ集にある料理の作り方や、メニューと似ていたような気がします。

彼女の実家のザンボン家でも、たしかにブロードを利用した料理が多いです。ロザンナさん流では、トマトソースにもブロードを入れるのですよ。

ロザンナの毎日だってイタリアン』、とてもいい本です。
単なるタレント本ではなく、結局のところ、イタリア人のマンマの料理であり、しかも、日本で手に入るもので書かれていますから。実際、「ヴェネチア風レバーソテー」や、「チキンのアンチョビソース」など、本当に絶品です。

フィノッキオ、発見。

こんばんは。

昼間、目黒のザ・ガーデンに寄ってみたら、フィノッキオを発見してしまいました。
大好物なので、即、購入!!

せっかく買ったからには、早速、お料理に使いたい。
ので、イタリアでは、どういう風に食べてたかなぁ、と思い出してみました。

フィレンツェの人たちは、フィノッキオが好きで、羊肉のラグーに飾ったり、モルタデッラにも入っていました。ただし、日本の冷蔵庫にある材料でできるのは何だろう?と、考えて、思いついたのがこれです。

「豚肉の煮込み菜園風」

・仔牛肉があれば一番ですが(あれば角切り)、なければ豚肉の薄切り。私は、お弁当にするので、一口サイズに切りました。
・肉と同じ量の「菜園」の野菜。具体的には、にんじん、セロリ、じゃがいも、いんげん、フィノッキオ、玉ねぎなど。小さな角切りにします。
・にんにく2かけほど。
・フレッシュなセージの葉、数枚。なければ、ミックスハーブで。
・ドライ・ベルモット50ccくらい
・ブロード(野菜またはチキン)300ccくらい
・オリーブオイル
・塩 こさじ2から3
・胡椒

作り方は
まず、鍋に、にんにく(色づいたら取り出す)とオリーブオイル、肉、ハーブを入れて、火にかけます。
肉に火が通ったら野菜を入れて、ドライ・ベルモットを振りかけます。アルコールがとんだら、ブロードと塩をいれます。
そのまま、蓋をしないで、弱火から中火で、汁気がほとんどなくなるまで煮込みます。
最後に胡椒をかけて、できあがり!!

パンにも、ごはん系(例えばきのこのピラフなど)にもあいますよ。

ところで、「菜園風」。all'ortolanaといいますが、単に、野菜ならなんでも、というわけではないのですよね。夏の菜園にあるようなもの。だから、ブロッコリーとかきのことか微妙に違う。上手く説明できないけれど、それがイタリア風の感覚なので、つけくわえておきます。

[レシピ]りんご、再び。江戸料理から。

こんばんは。
寒い日が続いていますが、みなさま、お元気に過ごされていますか。

私は、少し風邪気味。
なので、りんごもまだたくさん家にあることだし、今日もりんごのお料理を作ってみました。

「りんごの胡麻・山椒あえ」

りんごを細く切って、塩入りの酢水にくぐらせ、水気をきり、すり胡麻と山椒をあえるだけ。

いつもどおり、簡単です。
でも、驚くほど美味しいです。
りんごの甘さと爽やかさ、すり胡麻のコク、山椒のぴりりとしたアクセント。
江戸っ子の粋を感じられますよ!!

「りんごのポタージュ」15世紀の思想家バルトロメオ・サッキのレシピから。

こんばんは。

家にりんごが山ほどあるので、今日は、
こんなものを作ってみました。

「りんごのポタージュ」

15世紀の思想家バルトロメオ・サッキまたの名をプラーティナ、のレシピです。

作り方はかんたん!!
りんご(甘いもの)をすりおろして、チキンのブロードで少しのばして火にかけます。
りんごに火がとおったら、刻んだミントとパセリを入れて、火からおろし、スパイスをかけて出来上がり。

甘さの中にほんのり塩味。ミントの香りも清々しく、美味しくて身体にもよい一皿です。(実際、料理と健康をテーマに書かれたものにあるレシピなのです)

ところで、プラーティナのレシピでは、単に「スパイス」とあるので、お好きなものでよいのですが、私が試したところでは、シナモンだとドルチェ風になります。ナツメグや山椒だと、味に輪郭がついて、また別の風味。
いろいろお試しくださいね。

最後に。くれぐれも、りんごは甘めのものを使うこと。当時のりんごは甘かったようですから。

雪の日には読書でも。フィリップ・ジレ『旅人たちの食卓』

東京、ものすごい、大雪ですね。

今日は用事があって、午後から、この雪の中、出かけているのですが、
我が家のある田園調布は、毎度のことながら豪雪状態。
ふくらはぎまで、ずぼずぼと雪に埋もれながら、やっとのことで駅まで到着。
なんせ、駅に辿りつくまでの間に、雪かきをしていた家は2件だけなのですもの。
(もちろん、うちも、やっていません)

さて、「蛍の光 窓の雪」ではありませんが、こんな日は、暖かい部屋で、
ぬくぬくと読書でも楽しみたいもの。
そこで、今日は、先週見つけた素晴らしい本を、ご紹介しちゃいます。

フィリップ・ジレ『旅人たちの食卓』(訳:宇田川 悟、平凡社、1989年。)

旅人たちの食卓―近世ヨーロッパ美食紀行

旅人たちの食卓―近世ヨーロッパ美食紀行

この本は、フランス食文化研究科のフィリップ・ジレ氏が1985年に書かれた処女作の翻訳版です。
氏は、この作品で1986年に、アカデミー・フランセーズ歴史部門の銀賞および第四回ルレー・グルマン文学賞
受賞されました。
つまり、学問畑とジャーナリズムの双方から、評価を得たわけですが、その作品の面白さは、
発表されてから20年以上たった今でも健在です。

歴史研究の手法としては、非常にフランス的。
16世紀のモンテーニュはじめ18世紀に日本に旅行し『日本旅行記』をパリで出版したスェーデン人ツンベルグまで、
時代も国も性別もさまざまな23人の証言をもとに、16世紀から18世紀にかけての、ヨーロッパ(フランス、イタリア、
スペイン、ドイツ、ポーランド、イギリス)の食事(といっても、史料の性質上、主にエリート文化ですが)を、
テーマごとに分析するというもの。

ちなみに、テーマは以下の通り。

・「飲むとは」(第二章 「飲む」という行為についての分析)
・「いつ、どのように食事していたのか」(第三章 各国の食事時間、方法、マナーなど。スペインには驚きます)
・「パンとその仲間」(第四章 パンだけでなく、パスタなどについても)
・「肉食日には」(第五章 肉という食材の各国の扱い方、同時代的評価)
・「肉なし日には」(第六章 キリスト教には肉が食べられない時期、曜日がありました。その際の食事。
   具体的には、脂肪分、チーズ、魚、野菜など。時代と宗教と人間の駆け引きがおもしろいです)
・「やっかいなスパイス」(第七章 中世ヨーロッパ=スパイスだとして、その後の時代に各国でどうなったのか)
・「ところで旅人たちは何を飲んでいたのか」(第八章 具体的な飲み物の話。ワイン、ビール、コーヒーその他。
   冒頭、フランス人のラバ神父が、スペインで遭遇したワインの造り方はかなりヤバい・・・)
           
23人の旅行記からの引用を、週間雑誌によくみられる「証言」のように引用して構成されているので、
研究者でなくとも、「いまどき口コミ情報」のように楽しめるのが魅力です。

とはいえ、この時代の人たちの証言って、信憑性がどれだけあるのでしょうかね。
実は、私たちにもなじみのあることについての証言が、一つ引用されていたので、孫引きさせていただきます。
ツンベルグの証言。(p.116.)

  日本の大部分の島でマカロニによく似た食物が売られている。小麦
  か蕎麦(後者の種類を「ソバキリ」、前者を「ラクス」と呼ぶ)を練って、
  両手を広げた長さの二倍はあるくらいに薄く板のような形にする。
  それを大小はあるが細長く切り、タマネギといっしょにスープに混
  ぜる。麵は完全に溶けないので少し粘つくが、非常に滋養があって、
  素晴らしい味だ。この食物は「ニュウメン」と称する、魚の入った
  うまい汁を作るのに使われ、それにスペイン・コショウとしょうゆ
  を混ぜると「ソーメン」という汁になる。

どうも、指示語の翻訳の仕方が、あいまい(ツンベルグそのものがスウェーデン人にもかかわらずフランス語
で書いたものを、フランス人が一部分切り取り、さらに日本語に訳したからでしょうか??)なような
気もしますが、当たらずとも遠からず。
しかも、彼の来た18世紀の日本では、何語で話していたのかわかりませんが当然日本語のはずもなく、
ということを考慮すると、旅行記はかなりいい線いっている史料だと思いませんか??

そんなわけで、イタリア・ルネサンスの思想家の手紙の分析なんぞをやっていた私は、
フランスのアナール派の教授について研究していたのにもかかわらず、
先週にいたるまで、こんな良書を知ることがなかったわけです。

が、これも運命。
いまこそ自信を持って、皆様に、おススメします!!

森家の食卓から。

今夜はゆっくりと家で食事。
暖かいもので、ほっこりとしたいなぁ、と思い煮込み料理にすることにしました。

「牛肉とキャベツの煮物」

要するに、牛肉とキャベツを入れた鍋に水を注ぎ、三時間ばかりコトコトと煮込んで、最後に塩・胡椒で味つけしたもの。
これだけだと、あまり、ありがたみがありませんが、来歴を聞くと、へぇ、と思うはず。

実は、これ、かの文豪、森鴎外のお家でよくつくられていた料理なのです。

私は、もともと、写真家の秋元茂さんの「無精者シチュー」というのが大好きで、よく作っていました。塩・胡椒した豚バラの角切りの、脂身の方を下にして鍋底にしきつめ、その上にキャラウェイ・シードを振りかけて、弱火で煮込む、といったものなのですが(もちろん、これも絶品)、それを知り合いの作家さんに話したところ、「森鴎外の家にも、おなじようなレシピがあるんですよ。牛肉で」、と言って、鴎外の娘である森茉莉のことが書かれた『森 茉莉 贅沢貧乏暮らし』という本を貸してくださいました。

森茉莉―贅沢貧乏暮らし

森茉莉―贅沢貧乏暮らし

読んでみると、たしかに載っている。
しかも、解説によれば、鴎外はドイツから帰国の折りに、レクラム文庫(あの、ドイツ語を学んだことのある者なら、必ず一度は憧れる、おさまりの悪い小さな文庫本!!)の料理本を買い込んで、母や妻に翻訳して、作り方を指南したとか。
そして、娘の森茉莉とっては、幼いころ、家で食べた洋食のなかで、一番美味しくて忘れられなかった料理。

ぜひ、時間のあるときに、一度はつくらねばと思っていたことを、今晩、決行したというわけです。

「スープをたっぷりとって、キャベツと牛肉をいただくのだけれど、そのキャベツのおいしかったこと、子供のわたしでもよくわかったわ」と森茉莉が、回想するように、三時間も煮込んだキャベツはトロトロ。牛肉もホロホロ。ロシアの「シチー」を思い起こさせるのだけれども、材料はキャベツと牛肉だけで味も塩・胡椒だけなので、より素朴で優しく、そして何よりも白いごはんに合う。

ドイツではもちろんザウアークラウトの入ったレシピもあっただろうに、当時の日本ではなかなか手に入らなかっただろうから、鴎外は、ただのキャベツを使ったものを選んだのかしら。


ともかくも、身体も心も暖まりました。
鴎外はお医者さまでもあるから、身体によいに違いないはず。
この100年も前の料理が、今日から我が家の定番料理です。

にんじん・クミン・ゴルゴンゾーラ!!!

こんばんは。

昨日あたりから、目がとても疲れているので、にんじんを食べてみることにしました。
私は、中国薬膳を料理研究家のパン・ウェイ先生に師事しているのですが、
生活リズムの関係から、肝臓が疲れやすく、そのせいで目が疲れのだといつも言われます。
そんなときは、青菜やにんじんを摂るのが効くのです。

いつもは中国料理風に、ゴマ油などを利用して和え物にするのですが、
今日は、イタリア風にしてみました。

「にんじんのクミン入りゴルゴンゾーラソース」

これ、ちなみに、創作料理ではありません。
ロンバルディーア地方の、伝統料理のひとつ。

作り方はいつもどおりに簡単です。
ソースは、ゴルゴンゾーラ・ピッカンテを刻んで、生クリームでのばし、
ほんの一つまみのクミンシードを入れます。
それを、スライサーで千切りにしたにんじんにあえるだけ。
ここでポイントは、にんじんはスラーサーで処理すること。
包丁で千切りするより、野菜の繊維がこわれるので、こういった和え物が
なじみやすくなるのです。

さて、ここで、なぜクミン??と思われる方もいらっしゃるのではないかしら。

クミンといえば、インド料理を思い浮かべる方も多いはず。

けれど、ヨーロッパ世界では、古くから使われているスパイスなのです。

古代ローマ時代は、肉や魚の調味料として、そして古代ローマの必須アイテム「ガルム」に
混ぜられ、さまざまな料理の調味料として活躍しました。
ちなみにガルムとは、「古代ローマ人なんでもこれふりかけてるでしょ」ってくらいに
利用されている魚醤のことです。
オクタヴィアヌスのチーズ」で紹介させていただいた、アピキウスにも、
ガルムと酢をあわせた調味料の作り方がのっていますが、その中に必ずクミンは入れられています。

中世ヨーロッパ。それはもう、スパイス天国でした。
これでも、というほど、料理にスパイスを入れるわけです。
たしかにクミンは、イベリア半島を除いては古代ローマほどの活躍ぶりはみられないのですが、
レコンキスタが完了するのは1492年ですからね!!それまではイスラム勢力があったのです)
それでも、パンに入れられたり、いろいろと利用されていました。
私も、シエナでとある中世料理の店に行ったことがありますが、そこでの黒パンには、
クミンが入っていたのを覚えています。

16世紀以降、徐々に料理の価値観が変わっていくという点は、非常におもしろい問題点なのですが、
ここではさらっと。
たとえば、パンについての考え方も変わってきます。
「白く」「やわらかく」「スパイスの入っていない」パンが「おいしいパン」という考え方が
根付いてくる。
そうなると「あそこのパンにはクミンが入っている」という表現が、ネガティヴな意味で
使われるようになってきます。しかしながら、ポーランド(当時は大国でしたから)などでは
穀物が乏しいのか、王侯貴族もライ麦のクミン入りパンを食べていたようで、依然として、
王の食卓が多分に中世の香りを残したもの(つまり、17世紀、18世紀のフランス人は辟易する
ほどスパイスたっぷり)だったこととも結びついているような気がします。

と、ざっくり、ヨーロッパの歴史とクミンの話をしてみてみたわけですが、
今でも、ドイツや東欧ではクミンを利用する料理はソーセージなどありますよね。
チーズにも、オランダのスパイスゴーダのような、クミン入りゴーダがある。
クミンは大航海時代のたまものではなく、ヨーロッパ世界の伝統だったわけです。

と、いろいろごたくを並べてみましたが、ゴルゴンゾーラとクミンは、あうのですよ。
今でも、ネットのレヴェルでもちょっと調べれば、たくさんレシピがでてくるくらい。

私も、カレーの隠し味に、ゴルゴンゾーラをよく使っています。