まつたけ便、未だ、来ず。

今週のお題「センチメンタルな秋」

実のところ、私の生業は、都内某所にある運送会社の夜勤の
社員なのであるが、運送会社というのは、意外にも季節感あふれる
仕事場で、お正月には神社に飾る注連縄やお神酒の樽が、
春になればいちごやハーブの鉢植え類、夏になると、笹やあさがお、
ほおずきに果ては縁日の金魚やうなぎまで。
真夜中の陽の当たらない生活をしているわりには、季節に敏感な
お客様たちのおかげで、楽しませていただいている。

そのなかでも、秋は特別なのだ。

もちろん、ボジョレー解禁日前後には、年々工夫が重ねられていく
梱包技術のめざましさを感じつつ、大量のワインが届くのだが、
みんなのお待ちかねはそれではない。

とある埼玉のハブセンターからやってくる、最初の路線便。
降ろし場に到着し、封印を切って扉を開ける前から、立ちのぼる芳香!

まつたけである。

大量の東北からの荷物をさばく、このハブセンターでは、
最高級食材のひとつであるまつたけの輸送は、荷物がまださほど
多くない真夜中の便で行なわれる。
うちの店に来るのは、夜明け前、休憩時間のころ。
普段は休憩時間に誰も降ろし場なんかに来ないのに、香りにつられて
何人も、そのトラックの前にやってくる。

「あ、まつたけだ」

ふだんは、むすっとしたバイトの若い子も、少しだけ顔をほころばす。

昨年などは、まつたけの大豊作だったので、一便めだけでなく、
二便めにもつまれている日があり、
「今年は俺らも買えるかな」とか、まるでまつたけの香りに反応を
示さない中南米人のバイトたちと「まつたけの香りのよさが
わかんねーのかよ」とか、みんなで軽口をたたきながら、せめて
香りを楽しんでいたのだった。

だが今年はまだ来ない。

いろいろなことがあったから、だろうか。

いつもの路線便のドライバーに、ハブセンターの状況を尋ねてみた。
「今年はまつたけ全然みかけないよ。柿は多少は来るけど」
「そう」と答えると、その東北出身の彼は続けた。
「去年みたいにふつうじゃなく大豊作だったりするとさ、ふつうじゃ
ないことがおきるんだよ。去年は全然気づかなかったけども」

そうだ、私も「おすそわけ」、と去年、一本貰ったのだった。
去年はみんなでまつたけの豊作を喜んでいたのに。

今晩もまつたけは来なかった。

それでも、私は、待っているんだ。
あの芳香に包まれた、夢のようなトラックが来ることを。
明日も、来年より先になったとしても。