雪の日には読書でも。フィリップ・ジレ『旅人たちの食卓』

東京、ものすごい、大雪ですね。

今日は用事があって、午後から、この雪の中、出かけているのですが、
我が家のある田園調布は、毎度のことながら豪雪状態。
ふくらはぎまで、ずぼずぼと雪に埋もれながら、やっとのことで駅まで到着。
なんせ、駅に辿りつくまでの間に、雪かきをしていた家は2件だけなのですもの。
(もちろん、うちも、やっていません)

さて、「蛍の光 窓の雪」ではありませんが、こんな日は、暖かい部屋で、
ぬくぬくと読書でも楽しみたいもの。
そこで、今日は、先週見つけた素晴らしい本を、ご紹介しちゃいます。

フィリップ・ジレ『旅人たちの食卓』(訳:宇田川 悟、平凡社、1989年。)

旅人たちの食卓―近世ヨーロッパ美食紀行

旅人たちの食卓―近世ヨーロッパ美食紀行

この本は、フランス食文化研究科のフィリップ・ジレ氏が1985年に書かれた処女作の翻訳版です。
氏は、この作品で1986年に、アカデミー・フランセーズ歴史部門の銀賞および第四回ルレー・グルマン文学賞
受賞されました。
つまり、学問畑とジャーナリズムの双方から、評価を得たわけですが、その作品の面白さは、
発表されてから20年以上たった今でも健在です。

歴史研究の手法としては、非常にフランス的。
16世紀のモンテーニュはじめ18世紀に日本に旅行し『日本旅行記』をパリで出版したスェーデン人ツンベルグまで、
時代も国も性別もさまざまな23人の証言をもとに、16世紀から18世紀にかけての、ヨーロッパ(フランス、イタリア、
スペイン、ドイツ、ポーランド、イギリス)の食事(といっても、史料の性質上、主にエリート文化ですが)を、
テーマごとに分析するというもの。

ちなみに、テーマは以下の通り。

・「飲むとは」(第二章 「飲む」という行為についての分析)
・「いつ、どのように食事していたのか」(第三章 各国の食事時間、方法、マナーなど。スペインには驚きます)
・「パンとその仲間」(第四章 パンだけでなく、パスタなどについても)
・「肉食日には」(第五章 肉という食材の各国の扱い方、同時代的評価)
・「肉なし日には」(第六章 キリスト教には肉が食べられない時期、曜日がありました。その際の食事。
   具体的には、脂肪分、チーズ、魚、野菜など。時代と宗教と人間の駆け引きがおもしろいです)
・「やっかいなスパイス」(第七章 中世ヨーロッパ=スパイスだとして、その後の時代に各国でどうなったのか)
・「ところで旅人たちは何を飲んでいたのか」(第八章 具体的な飲み物の話。ワイン、ビール、コーヒーその他。
   冒頭、フランス人のラバ神父が、スペインで遭遇したワインの造り方はかなりヤバい・・・)
           
23人の旅行記からの引用を、週間雑誌によくみられる「証言」のように引用して構成されているので、
研究者でなくとも、「いまどき口コミ情報」のように楽しめるのが魅力です。

とはいえ、この時代の人たちの証言って、信憑性がどれだけあるのでしょうかね。
実は、私たちにもなじみのあることについての証言が、一つ引用されていたので、孫引きさせていただきます。
ツンベルグの証言。(p.116.)

  日本の大部分の島でマカロニによく似た食物が売られている。小麦
  か蕎麦(後者の種類を「ソバキリ」、前者を「ラクス」と呼ぶ)を練って、
  両手を広げた長さの二倍はあるくらいに薄く板のような形にする。
  それを大小はあるが細長く切り、タマネギといっしょにスープに混
  ぜる。麵は完全に溶けないので少し粘つくが、非常に滋養があって、
  素晴らしい味だ。この食物は「ニュウメン」と称する、魚の入った
  うまい汁を作るのに使われ、それにスペイン・コショウとしょうゆ
  を混ぜると「ソーメン」という汁になる。

どうも、指示語の翻訳の仕方が、あいまい(ツンベルグそのものがスウェーデン人にもかかわらずフランス語
で書いたものを、フランス人が一部分切り取り、さらに日本語に訳したからでしょうか??)なような
気もしますが、当たらずとも遠からず。
しかも、彼の来た18世紀の日本では、何語で話していたのかわかりませんが当然日本語のはずもなく、
ということを考慮すると、旅行記はかなりいい線いっている史料だと思いませんか??

そんなわけで、イタリア・ルネサンスの思想家の手紙の分析なんぞをやっていた私は、
フランスのアナール派の教授について研究していたのにもかかわらず、
先週にいたるまで、こんな良書を知ることがなかったわけです。

が、これも運命。
いまこそ自信を持って、皆様に、おススメします!!